東京をおまえの記憶そっくりにつくり直してわれわれが住む

東京をおまえの記憶そっくりにつくり直してわれわれが住む/我妻俊樹

(誌上歌集『足の踏み場、象の墓場』(『率』10号)所収)

 

東京は何度もつくり直されてきた。都市の名をいただく数多のポップソングがその証拠だ。そのなかからすきなものをひとつ選んで再生すれば、「東京」は聴き手がその身をすべり込ませておしゃべりを始めるために設けられた巨大な空隙の名でもあることがわかるだろう。人が都市について語るとき、語られる都市は語り手の記憶によく似たすがたをしていて、実際のすがたとは違う。だから、東京は何度もつくり直されてきた。それはわたしたちの他愛のない楽しみであり、誰にも奪われてはいけないはずだ。

ところがこの歌ははじめからどこかおかしい。ささやかな楽しみにふけるわたしは「おまえ」の座へと突き落とされる。得体の知れない者たちがわたしになり代わり、あまつさえ住みつこうとしている。わたしはわたしの東京から追われる。わたしを家から焼き出してくれる短歌の書き手をわたしは我妻俊樹以外にしらない。

(初出:『文學界』2022年5月号)